産業保安ポータルサイト立ち上げのごあいさつ by さんぽのひろば編集長 牧野 良次

さんぽコラム 産業保安のけいざい学
産業保安ポータルサイト立ち上げのごあいさつ
さんぽのひろば編集長 牧野良次

投稿日:2017年06月20日 12時00分

 皆様こんにちは。国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グループで主任研究員をしております牧野良次と申します。このほど、産業保安ポータルサイト「さんぽのひろば」を立ち上げました。今度とも何卒よろしくお願い申し上げます。

 さてこの記念すべき第一回コラムにてサイト立ち上げのご挨拶を申し上げますので、お時間のある方、少々お付き合いいただければ幸いです。

自己紹介

 横浜国立大学から博士(経済学)の学位をいただき、2002年から産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センター(CRM)で働き始めました。CRMでは化学物質の環境リスク評価の枠組みの中で費用便益分析などの経済分析をやっていましたが、2008年にCRMを含む3つの研究ユニットが統合して安全科学研究部門が設立された頃から、徐々に産業保安に関する研究に関与し始めました。
 ご参考までに過去の発表論文の一部を示します。

  • 安全対策に関する会計学的検討, 安全工学56(2), pp.76-83, 2017
  • Stock market responses to chemical accidents in Japan, Journal of Loss Prevention in the Process Industries 44, pp.453-458, 2016
  • 安全対策の費用便益分析に関する最近の研究と課題, 安全工学53(3), pp.160-166, 2014

 産業保安に関連する重要な業務のひとつとしてリレーショナル化学災害データベース(RISCAD、リスキャドと呼んでいます)の運営を担当しています。化学産業で起きた事故をメインに収録している事故データベースになります。前任の和田有司さんから業務を引き継ぎました。いまでも和田さんからは折に触れご指導を受けております。

 現在は私の他に阿部祥子さん伊藤貴子さん鈴井真紀さん中島農夫男さん若倉正英さんでチームを組んでRISCADを運営しています。日々の事故情報収集、データベースに掲載する情報の取捨選択、事故分析手法PFAⓇに基づく事故進展フロー図の作成、データベースのシステム管理、学会発表、などなど業務は多岐にわたりますがチーム一丸となって頑張っております。日々勉強の毎日です。

事故データベースの「志」

 さて上でRISCADの話をしましたが、産業保安の推進・事故防止のためには過去の事故から学ぶことが極めて重要と思っております。RISCADはまさにそれ、つまり「過去の事故から学ぶ」ことを支援したいという志で運営しています。我々のRISCADだけではありません。国内の事故データベースはすべてその志のもとに運営されているものと推察いたします。試みに各データベースについて「目的」と思われる文言を抜き出してみました。

失敗知識データベースの「失敗まんだら」

「科学技術振興機構が実施している“失敗知識データベースの構築”は、まさにこれ(=“失敗知識の伝達”がうまくいっていないこと:引用者注)を解決する1つの方法を提供しようとするものである」http://www.sozogaku.com/fkd/inf/mandara.html

石油エネルギー技術センターの「製油所の安全安定運転の支援(事故事例リストへのリンクが貼ってあるページ)

 「本資料は、国内/海外製油所における事故事例紹介とその安全の確保/保安の確保を目的としています」http://www.pecj.or.jp/japanese/safer/safer.html

高圧ガス保安協会の「高圧ガス事故事例」

 「高圧ガスのみならず広く災害防止に資するための参考として頂ければ幸甚です」http://www.khk.or.jp/activities/incident_investigation/hpg_incident/recent_hpg_incident.html

危険物保安技術協会の危険物総合情報システムにおける「事故事例集」

 「事故防止対策のためこれまでに発生した危険物施設の事故事例を収集」http://www.khk-syoubou.or.jp/hazardinfo/guide.html

災害情報センターの「理事長ご挨拶」

 「このような事故や災害の発生を未然に防止し、減災化を図るためには、これまでに発生した事故・災害の貴重な教訓を学ぶことが一つの重要な手段といえます。そのためには、これまで発生した事故や災害を収集・分類・整理し、有効に活用するためのデータベース化が必要であります」http://www.adic.waseda.ac.jp/rise/greetings/

(肝心の)RISCAD

 残念ながらウェブサイト(https://riscad.aist-riss.jp/)には「志」にあたることが書かれていないようです。
 言い訳めいてしまいますがRISCADの紙媒体パンフレットには「化学物質を取り扱う際の事前評価や事業現場での安全教育にご活用ください」と書いておりますし、また和田(2013)は「事故事例を学ぶことによって、事故事例を擬似的に体験し、事故を繰り返さないことを目的に開発された「リレーショナル化学災害データベース(RISCAD: Relational Information System for Chemical Accidents Database)」」と述べております。
 とはいえ改めて志の文言を練って、ウェブサイトにも掲げたいと思っています。反省。

衝撃の?事実

 当たり前のことですが、産業の現場で事故情報が事故防止に役立つためには、企業の皆さんに上記サイトにアクセスしていただいて事故情報に触れていただく必要がありますね。しかし、昨年我々が実施したとあるアンケート調査の結果(我々にとっては)衝撃の事実を目の当たりにすることになりました。

 昨年9月に総勢140名の企業の方々にご来場いただき、とある講演会を開いたときのこと(それについてはまた別のコラムに書きます)。
 来場者は化学関連企業にて何らかの形で保安に携わっている方々です。その講演会で国内の各種事故データベースの認知度に関するアンケートをとってみたところ、保安に携わっている方々であっても、なんと来場者の45%の方々はRISCADを「知らない・見たことがない」とのこと・・・。

 あくまで例えばですが「設計に関与している方々はRISCADをよく見ているが、製造の方々はあまり見る機会がなく、説明会に来場していたのは製造の方々が多かった」というような「サンプルの偏り」が原因であると考えられないこともないですが、それにしたって知られていなさ過ぎるというのが率直な感想です。我々運営者側が、もっと知っていただくための努力をしなければならないのではないか!?

国内各種事故データベースの認知度(DB1から5はそれぞれ国内の事故データベース)
来場者数
N=140名
よく利用 まあまあ利用 たまに利用 見たことがある 知らない・見たことがない
RISCAD 2% 3% 14% 36% 45%
DB1 0% 2% 9% 26% 64%
DB2 9% 14% 28% 33% 17%
DB3 4% 12% 21% 34% 30%
DB4 4% 12% 21% 2% 32%
DB5 5% 10% 22% 24% 9%

2016年9月に調査。対象は産業技術総合研究所のとある講演会に来場した、各社内で何らかの形で保安に携わっている方々。

サイト立ち上げの目的

 さて今回、産業保安ポータルサイト「さんぽのひろば」を立ち上げました。
 その目的としてRISCADの認知度を改善したいということは確かにあります(RISCADの中身自体に工夫改善を加えるという方向性は別立てとしてあります)。やはりアクセスしていただけないと情報を活用していただけませんので・・・。

 ただ一方で、純粋に「産業保安に携わる方々にもっと役立つ情報を提供したい、各種情報にアクセスしやすい環境を整えたい」という思いがあります。もっと言うと「この産業保安ポータルサイトを訪れたら産業保安に関する情報はひととおり集まる」というようなサイトを目指しています。
 使いやすい便利なサイトを作って、情報を拾っていただいて、ひいては日本の産業保安向上のお役に立ちたい。そんな一心でサイトを立ち上げました。頑張って更新して賑やかなサイトにしたいと思います。またちょっと肩の力を抜いた、楽しい読み物も掲載したいと思っています。

 保安関連情報を得たい方、仕事で疲れた頭をちょっと休ませたい方、みなさんが楽しみに訪れていただけるようなサイトを作っていきたいと思っておりますので今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

牧野 良次 / Ryoji MAKINO,Ph.D

(国研)産業技術総合研究所 安全科学研究部門 主任研究員
「さんぽのひろば」編集長

産総研研究員なのに経済屋という変わりダネです。安全対策の経済的効果や社会的評価の定量化に関心があります。
出身地:愛媛県新居浜市(ただし上部)