サイト 産総研:安全科学研究部門 > さんぽのひろば|産業保安ポータルサイト| 産業保安に関する情報をお届けします > さんぽコラム > のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO):中島農夫男コラム > 化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その1)【のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)】by 中島農夫男

化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その1)【のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)】by 中島農夫男

さんぽコラム のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)
化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その1)
中島 農夫男

投稿日:2018年11月22日 15時00分

 化学産業事故の事故分析手法PFA(R)を活用した解析検討で、自然災害(ハリケーン上陸と洪水)の事故事例を検討する機会を得た。事故は、米国の米国化学安全委員会(CSB)の報告書を取り上げた(資料-1)。事故の時系列に沿った解析の詳細は、事故分析手法PFA(R)報告を参照願う(※編集担当注:該当事例の事故進展フロー図は2018年度内にリレーショナル化学災害DBにて公開予定です、今しばらくお待ちください)として、概要は下記のとおりである。

2017年8月31日(金)17時頃
米国・テキサス州において大型ハリケーン(ハービー)上陸と停滞で前例のない記録的な豪雨となった。基準海抜水位を採用した当該工場は、有機過酸化物の低温倉庫庫での一時保管と配送(ハブ)拠点としての役割を担っていた。異常降雨による水位上昇は、低温貯蔵庫の工学的な多重防護施設が有効に機能できず、最後の手段に有機過酸化物容器を冷却トレーラ9台に移し替えて高台へ移動とした。現場に残された冷却不能のトレーラー(3台)から出火し、移動した6台も計画的に燃焼させた(全焼却量:159t以上)。

 一方では、エネルギー関連機関が上陸直前の生産停止の国内影響を石油生産で24.5%、天然ガス生産で25.9%と石油精製で12%と見積もった。石油関連貯蔵基地では、ガソリンタンク(2基)が損壊して1,745立方m流失し、回収は、20%のみに留まっている。ビジネス誌では、全体で2,000tを超える化学品の流出情報もある。
 事故分析手法PFA(R)報告では詳細に記載しなかったがCSBは、洪水リスクや対応の有効性について、欧米のガイダンスや規制の調査も実施している。化学工場の皆さんに置かれてはすでに反映済みの内容かと思いつつも、自然災害への備えにお役に立てば幸いとご確認をしていただく意味で、CSBが調査した現状の欧米の洪水ガイダンスと規制を補完的に投稿した。

 自然災害は、地震、津波、ハリケーン(台風)、洪水、地滑り、雷、竜巻、大雪、干ばつ等が単独で起きることもあるし、地震と津波、台風と洪水といった組み合わせの影響が増幅して大惨事に至ることもある。自然災害によって引き起こされる技術的二次災害は、Natech事故と呼ばれて、化学工場では危険物質が広範囲に、多数が、同時か時間差を持って漏洩、火災・爆発と物理的、化学的なドミノ効果等をもたらす複合リスクの危険性がある。

 今回の洪水は、土木的な問題であるが洪水で生じた有機過酸化物の冷却は、土木、化学、電機関係の工学が交差する個々の専門性を超えたテーマである。さらに複雑にしているのは、既存の防護手段や従来の紋切り型の産業事故防止の多重防護層が守るであろうという信念がある。独立防護層として幾重にも構えた仕組みが、真に独立ではなくて共通の要因(保安設備の浸水)で3つの防護層が一度に機能不全となっている。今回の事故から、異常気象の洪水リスクを取り扱うガイダンスの欠如が認識された。スイス再保険会社(スイス・リー Swiss Re)は、今回のハリケーンの洪水被害の保険請求が2.2兆円以上と公表し、アメリカ国民は、基盤となるリスクの本当の程度を明らかにせず、洪水リスクの全体像を認識する基盤も不十分で自らの記憶に頼っていると結論づけている。

 アメリカでは、洪水のような異常気象に対して事業者が対処すべき要求事項や詳細なガイダンスに欠けている(資料-2)。従って、連邦緊急管理局(FEMA:Federal Emergency Management Agency)が洪水マップを提供し、洪水がしばしば基準海抜を超え、範囲も洪水マップをはるかに超えると警告してもその情報収集と定期的な評価・報告をする仕組みとなっていない。設計前提として選択した海抜基準でその後の異常気象の変化に対処していて、一般的な準備事項からさらに深堀りした事前の準備措置は事業者依存となっている。洪水リスクガイダンスの欠如は、事業者が洪水リスクに気付かない危険性と洪水リスク評価のよい実践アプローチを持っていないかもしれない危惧もある。

 米国化学会の化学プロセス安全センター(CCPS:Center for Chemical Process Safety)は、化学工場のプロセス安全に関連する各種ガイダンスを公表・出版しているが、今回の調査からは一般的事項に留まっていて有効ではなかったと指摘された。CCPSには、異常気象、特に洪水、を焦点にした重要な安全防護措置や機器の共通機能不全要因の特定、感受性の評価等の異常気象のあらゆるリスク評価を支援する広範囲で包括的なガイダンスの整備要請があった。


【参考資料】
 資料1)USCSB Investigation Report No.: 2017-08-I-TX Organic Peroxide Decomposition, Release, and Fire at Arkema Crosby Following Hurricane Harvey Flooding

 資料2)アメリカ)化学工場の洪水リスク規制とガイダンス

中島 農夫男 / Nobuo NAKAJIMA

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員

化学系民間会社で事業と技術のライフサイクルの各ステージを広く薄く携わった後、産総研にて事故情報収集と原因分析業務などに従事しております。
事例の物語風編集で”気づきセンス”の研ぎ澄ましにお役に立てればと思っています。