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化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その2)【のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)】by 中島農夫男

さんぽコラム のぶさんのさんぽ道(SANPO-DO)
化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その2)
中島 農夫男

投稿日:2019年2月21日 15時00分

*化学工場の自然災害(洪水リスク)ガイダンスと規制(その1)はこちら

  欧州連合(EU)をみると、地政学的に各国をまたぐ大きな川と共存してきた歴史からかアメリカと対照的に洪水リスクの感受性は高いようである(資料-3参照)。
  産業の大事故リスクはセベソ指令によって規制される。指令は、工場の地理的位置から生じる増加リスクを取り扱うことを要求している。2012年に最新化(セベソ指令Ⅲ)して異常気象リスクを取り扱うことをしっかりと明示した。指令は、定期的な工場の安全報告で洪水や地震のような環境リスクを特定し、評価することを要求している。
  イギリスの環境庁は、規制対象下の施設の洪水準備計画の支援ガイダンス(資料-4参照)を発表し、洪水対応計画は事故や緊急対応計画の一部をなすと通知している。

●計画作成の準備として
・差し迫った洪水への気付きと洪水警報の理解
・地形情報を反映した詳細な洪水モデリング結果の把握
・洪水回復力の改善(防護のステップ操作採用と(止めるか・ゆっくりか・そらすかの)防護措置の適用)等

●洪水計画作成の検討項目は
・洪水が引き起こす装置水浸危険
・電気のような用役の長期、短期停止
・全重要安全設備の喪失
・設備・運転手順書・能力・訓練を考慮した手動運転能力
・安全な運転停止・要員再配置・化学品の安全確保とに要する時間 等

●優れた洪水計画に織り込まれるべき要素として
・訓練された従業員への洪水対応業務の割り当て
・警報源・天気予報・洪水レベルの確認
・事前に定められた運転停止・設備隔離・避難等の行動開始に向けた降雨量・川の水位・洪水警報等の引き金ポイントの整備
・洪水防護を含んだ詳細設計
・情報収集と緊急資材(ポンプ、予備発電機、清掃用器材)提供契約の取り決め
・洪水後の活動(洪水除去含めた生産施設・機器健全性の検証/汚染物・危険性物質・放射性物質逸失の有無チェック)等

  更に、定期的訓練の実施と要員確保と異常天気下の時間制約と機資材制限下での現実的対応能力のレビューを推奨している。
  以上、化学工場が共存していくための異常天気の対応ガイダンスも地政的、歴史的学習の成果が色濃く反映したものとして具体的で、貴重な情報提供になっていると思われた。

  アメリカの保険会社(Factory Mutual Global)は、洪水準備ガイダンスを公表し洪水発生前の周到な準備に適切な時間を取ることが鍵であり、よく組織化された計画は、不適切なものより70%低い損害とより早い操業再開になる。施設の高所への再配置は、要員依存の軽減に反映する主要な洪水リスク低減の鍵となる活動としている。
  不確実性が高い自然災害の対処は、科学のマルチ分野思考を基盤に地域性が高い最新化情報の評価や周知を繰り返して学習する組織能力が備えあればこそ、操業分断が短期で済む結果が得られるものと思われる。工場が立地するそれぞれの場所のリスク特性把握、影響範囲のダイナミックモデリング評価および工場の回復方法とその改善情報の整理をして必須要素を反映した標準タイムラインの作成・整備、および時間軸や行動項目の定期的な見直しルールを定めて最新化に努め、自然災害の不確実性に対応すべきではなかろうか。

【参考資料】
資料3)欧州)化学工場の洪水リスク規制とガイダンス

資料4)Environment Agency, “Preparing for flooding: A guide for sites regulated under EEPR and COMAH (June 2015),” June 2015.

中島 農夫男 / Nobuo NAKAJIMA

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員

化学系民間会社で事業と技術のライフサイクルの各ステージを広く薄く携わった後、産総研にて事故情報収集と原因分析業務などに従事しております。
事例の物語風編集で”気づきセンス”の研ぎ澄ましにお役に立てればと思っています。