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高圧ガス保安協会の事故事例データベースから見える実験中の甚大な事故について【Dating Chemistry 人と化学のランデヴー】by 若倉正英

さんぽコラム Dating Chemistry 人と化学のランデヴー
高圧ガス保安協会の事故事例データベースから見える実験中の甚大な事故について
若倉正英

投稿日:2018年8月28日 10時00分

 高圧ガス保安協会事故事例データベースには、各自治体から報告される高圧ガス保安法に関する事故が公開されている。2018年5月現在の最新版では、盗難、紛失を除いて1966年から2016年末までの8,117件が収録されている。

経済産業省
高圧ガス・コンビナートの安全法令(高圧ガス保安法)
高圧ガス保安協会(KHK)
事故事例データベース(※リンク先ページの説明に従ってご覧ください)

 「研究所」「学校」で発生した事故を抽出し、それぞれの事例の内容を吟味することで、約250件の事例が見いだされた。まず、死亡、重傷事故、多数の被害者が出た事故を以下に紹介する。
 なお、2011年以降,研究所や大学での高圧ガス保安法に関する死亡、重傷事故は起きていない。これらの甚大な事故はいくつかの共通要因でくくることができる。

①可燃性のガスや蒸気を取り扱う実験での点火源管理や爆発威力の見積の不足
 静電気や断熱圧縮など見えにくい点火源には要注意(事例No.1、7、10、12)

②高圧ガスや有害ガス取扱い時のバルブ管理等に関する理解や教育の不足
 微量の有毒気体が命にかかわることもある(事例No.2、5、8、9)

③不活性ガスの使用での酸素欠乏リスクに対する知識の不足
 酸素欠乏症は短時間の低酸素空気の吸引で発生し、時には命にかかわる(事例No.3、4)

④高圧酸素の取扱いの知識不足
 酸素による漏れテストは論外(事例No.6、11)

⑤法令(高圧ガス保安法など)の不遵守や軽視
 保安法令は過去の事故などを参照して制定された、安全のための最低要求事項である
 (事例No.9、12)

No. 発生年 事象 物質 被害(人) 概要
1 1980 爆発 水素 重傷 1 研究所で試験装置にガス警報器を入れて水素ガスを注入したところ、装置内部で爆発が起きた。電気火花が原因の可能性がある。
2 1984 中毒 硫化水素 重症 1 大学の実験室で硫化水素ボンベの元バルブを開けたところ、圧力調整器から硫化水素ガスが噴出し、研究員が重症となった。また、助けに入った学生2名も中毒となった。圧力調整器の取付けが不十分であった。
3 1986 酸欠 窒素 死亡 1 研究所でワクチンアンプルを凍結保存容器に収納するため、液体窒素ボンベのバルブを開き冷却を開始した。別棟で作業した後バルブを閉めに戻ったところ、酸欠で倒れた。倉庫の扉、窓は閉じられており、換気扇も作動していなかった。
4 1990 酸欠 窒素 死亡 1 液化窒素タンクから配管でデュワー瓶への液化窒素の充てん作業中、研究者が現場を離れ用事をすませ研究室に入ったところ窒息死した。現場を離れた間にデュワー瓶からオーバーフローした液化窒素が気化した窒素ガスが研究室に充満していた。
5 1991 爆発 モノシラン 死亡 2 大学の実験室でプラズマCVD装置での実験中、キャビネット内のモノシランガス容器が突然破裂して2名の学生が死亡し、5名が負傷した。キャビネット内にモノシランガスの他に、亜酸化窒素ガスなどのボンベが格納され、パージラインとしてそれぞれが結合され、逆止弁で見かけ上は縁切りされていた。しかし、Oリングが劣化して逆止機能が正常に作動しなかったため、亜酸化窒素とモノシランの可燃性混合気を生成し爆発した。
6 2000 破裂 酸素 重傷 3 生態系実験施設で農作物廃棄物を再利用する実験で、湿式酸化実験装置の反応器の漏れテストを高圧酸素で行ったところ、酸素供給口及び温度計口から火が噴き出し、研究員5名がやけどを負った。断熱圧縮熱で容器内部の汚れや粉じん等が発火し、反応器を溶融させた。
7 2000 爆発 液化石油ガス 重傷 2 環境試験室でガス給湯暖房機の冷結評価試験中に爆発が起こり、従業員6名がやけどなどを負った。原因は調査中となっている。
8 2003 中毒 硫化水素 重症 1 硫化水素をドラフト内でボンベからテドラーバッグに採取しようとしたところ、ボンベが空だったため、別の硫化水素ボンベから採取しようと減圧弁に接続されたテフロンチューブを外して硫化水素を採取した。その際、窒素パージを行わなかったため、チューブに残存する硫化水素が漏えいし、それを吸引して重体となった。
9 2005 中毒 塩素 軽症 20 大学の研究室改修のため、使用年限を越えて保管されていた塩素ボンベを移動させるため、元バルブを閉めてから圧力調整器を取り外したところ、塩素ガスが噴出し教官を含む20名が中毒になった。バルブのスピンドル部に腐食があった上に、バルブを完全に閉めきっていなかった。
10 2009 破裂 エチレン 水素 重傷 1 燃焼実験のため、予混合タンク内にエチレン、水素、酸素、窒素を供給中に内圧が上昇し、予混合タンク蓋を固定しているボルトが破断し、蓋が作業中の学生にあたり重傷を負った。静電気による着火が原因と考えられる。
11 2010 破裂 酸素 重傷 1 チタン製フレキシブル熱交換器の修理後、酸素により機器の気密試験を行ったところ、熱交換器が破裂し、作業員1名が重傷を負った。
12 2011 破裂 重油 死亡 1 大学の燃焼研究室のディーゼル燃焼実験で、高圧装置内で重油を噴射した。実験終了直後に窓ガラスが破裂して1名が即死、2名がガラスの破片で軽傷を負った。本来必要な高圧ガス保安法の許可を受けていなかった。
若倉 正英 / Masahide WAKAKURA

国立研究開発法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門 客員研究員
特定非営利活動法人保安力向上センター センター長

産総研での事故分析や保安力の評価などに従事。モットーは、”遊びと仕事の両立”。