火災時等の煙の有害性【注目の化学災害ニュース】2019年4月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2019年07月04日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。 4/16に神奈川県の埠頭の倉庫会社でベルトコンベアから火災が起きました。そのベルトコンベアは、船から倉庫まで、バイオマス固形燃料を運搬するために設置されていたものでした。ところでこの火災では倉庫に延焼し、保管されていた燃料に着火したことから、大量の煙が発生しました。その際に気になった「煙に有害物質は含まれていない」という説明。今回は火災時等の煙の有害性についてClose UPです。

4/16に神奈川県の、埠頭の倉庫会社でベルトコンベアから火災が起きました。事故の概要は以下の通りです。

埠頭の倉庫会社の幅約2m、全長約1kmのベルトコンベアで火災が起きた。消防車両延べ約230台、消防士延べ約1,000名が出動して約10日後に鎮火したが、同コンベアと同コンベアで結ばれた平屋建てのバイオマス燃料倉庫に延焼し、約15,000平方mが焼けた。同倉庫内の固形燃料やヤシ殻など約40,000立方mに延焼してくすぶり続けた。同倉庫は開口部が狭く、また、高さ約7mまで積まれた燃料などの内部にも火がまわったことから、放水が届きにくかったため、鎮火に時間を要した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同コンベアは船から同倉庫に木材の切り屑などでできたバイオマス固形燃料を運搬するために設置されていたが、出火時、コンベアは稼働していなかった。何かの原因で固形燃料から出火した可能性がある。

同倉庫には32,000tもの固形燃料が貯蔵されていて、開口部が少ない倉庫の構造が災いして内部には熱と煙がこもり、消火活動は難航しました。また、発生した煙の匂いが近隣地域に広がり、住民などからの苦情が相次いだとのことです。

燃えた固形燃料は、木屑やヤシの種殻が原料と天然由来のものであるので、煙に有害物質は含まれていないとのことです。化学物質の火災でなくてまだ幸いでした。

伊藤さんは本当にその煙に有害物質は含まれていないと思いますか?

うーん、木などが燃えて危険である場合というと、たとえば住宅火災などで人間が建物内にいて、一酸化炭素を吸って中毒になるというパターンはあると思います。一酸化炭素は何かが燃えた際に発生する有害物質にあたりますか?

一酸化炭素は、炭素や炭素を含む化合物が燃焼した際に、酸素の供給が不十分で不完全燃焼が起きた場合に発生しますね。換気が不十分な場所での火気の使用、例えば、冬場の締め切った部屋での鍋料理、狭い空間でのガソリンエンジン、発電機などの使用がそれにあたります。

では、この場合も消火が難航した倉庫内は、酸素も少ないと思われるので一酸化炭素が発生していますね。自然由来のものが燃えたから有害物質が発生していないとはいいきれないのですね。

燃焼時に発生する物質

確かに、不完全燃焼時には一酸化炭素が発生します。では酸素が十分にある状態、つまり、完全燃焼では何が発生しますか?

文系の私ですが、そのあたりまでは頭が理科の授業について行っていました。
C+O2→CO2
ということで、二酸化炭素が発生しますね。

そうです。炭素や炭素を含む化合物が、酸素が十分にある状態で燃焼すると二酸化炭素が発生します。では、二酸化炭素には何の有害性もないと思いますか?

二酸化炭素中毒が起きないとも限りませんが、それというのはよっぽどなことでないと起きないのではないでしょうか?

そう、二酸化炭素にも毒性はあるのです。伊藤さんの言うように、頭痛などで人体に影響が出る濃度は、一酸化炭素に比べるとかなり濃く、一酸化炭素が200ppm(0.02%)程度であるのに対して、二酸化炭素は3〜4%で100倍以上とされています。また、火災現場に炭素以外に燃焼して有害物質を発生する物質が含まれていないとは考えにくく、いずれにせよ、燃焼が続いて煙が大量に出ている時点で、「煙に有害物質は含まれていない」とは言えませんよね。

火災等の事故の際の有害物質発生の基準

厳密に言えばそうですね。「人体に影響が出るほどの有害物質の発生はない」、というのが正しいでしょうか?

この事例では、おそらく燃えたものの成分からそのように判断されたのでしょう。実際に測定は行っていないと思いますし、他の事例であるように、住民の苦情を受けてから自治体などが測定しても、(火勢が収まって時間が経った後では)「煙に(人体に影響が出るほどの)有害物質は含まれていない」というべきではないでしょうか。

明らかに有害な化学物質が燃えているような場合にしか「有害ガスの発生」はないのかと思っていましたが、そのようなことはなかったのですね。そういえば、報道などで「有毒物質」と「有害物質」の混同などもよく見られますね。

「有毒物質」や「有害物質」は法令などで定義されている場合がありますが、事故の報道などではそういう定義を意識して使われているとは限らないようです。特に「有毒物質」は、「電子政府の総合窓口」(https://www.e-gov.go.jp)で使用されている法令などを調べてみると「水道法」と「下水道法」とその関連法令だけのようで、非常に限られた物質を指します。多くの「安全データシート」(SDS)では、「毒性」は「有害性」の一つとして扱っており、様々な評価方法によって定められた閾値が示されていることを考えると、「有毒物質」をいう用語は安易に使うべきではないと思います。

「有毒物質」と「有害物質」の定義は複雑なのですね。実は私自身も現在のこの仕事をするまで、「有毒」と「有害」という表現の差に目を止めたことはほとんどありませんでした。今回はそれらの表現の混在になぜ問題があるのかについても勉強になりました。

【編集後記】

諸事情により、久しぶりの更新となってしまいました。

実はこの記事は4月に書いたものなのですが、今年は4月末頃からリサイクル処理施設などでの大規模な火災が相次ぎました。5月には茨城県常総市でのリサイクル施設で火災がありましたが、ちょうどその頃、私は入院しておりました。4人部屋の窓際の病床から、その火災による灰色の煙がたなびく様子を数日間に渡り観察していました。写真に収めたものが以下です。この火災は鎮火までに12日を要しました。同市内および近隣の市の小、中学生計82名が登校時に煙を吸うなどして喉の痛みや気分不良となったそうです。幸い大事に至った方はなかったようですが、この火災は廃家電製品の樹脂屑などが大量に燃えたということで、「有害な煙」が発生したということでしょう。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子