自然災害に起因する産業事故−その2−【注目の化学災害ニュース】2019年9月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2019年10月10日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。
昨年10月にこのコーナーにて、台風や地震などの自然災害に起因する産業事故(Natech(ナテック):Natural-Hazard triggered Technological Accidents)について、その解説とともにお話をさせていただきました。ありがたくないことに、今年もまた台風のシーズンがやってきて、私たちが抗えない自然の力により、想像を超えるたくさんの被害がありました。今回は主に今年9月に起きた、台風15号という自然災害に起因する産業事故にClose UPです。

今年も本格的な台風のシーズンが到来し、ありがたくないことに数多くの被害が出ました。特に記憶に新しいのは、長期にわたる千葉県での停電でしょうか。これは台風15号に起因するもので、一時千葉県内の約935,000戸が停電し、うち停電が最も長期間に渡ったところでは、復旧までに2週間以上を要したところもありました。
 参考:経済産業省ウェブサイト
 「令和元年台風第15号による被害・対応状況について(9月19日(木曜日)8時00分時点)」

先の見えない停電は、該当地域の住民の方々を疲弊させました。通信手段が断たれ、該当地域に住む家族と連絡が取れずに不安を感じた方々もいました。また、残暑厳しい時期であったことから、冷房設備等が使用できなかったことなどが一因となり、熱中症で亡くなられた方もいました。

千葉県と私たちが住む茨城県とは、隣県でありながらも、台風のルートにより被害の度合いは全く違うものとなりました。台風15号通過後の私の回りの環境を振り返ると、倒木などが多く目につきましたが、テレビで報道されていた千葉県のように折れた電柱を見ることはありませんでした。

一方、私たちのチームに、千葉県内の茨城県との県境に接する市にお住まいの方がいらっしゃいますが、やはり9/9-13までご自宅がある地域が停電されていたとのことでした。停電により住居のエアコン等が使用できなかったため、暑さに耐えかねる時には車に避難してエアコンをかけて休まれたそうです。また、住環境等の被害としては、屋根瓦の飛散、畑のビニルハウスの破損などがあったとのこと。ただ、県境を越え茨城県に入ればそこは通常の日常生活状態で、食料品の買い出しや、水の調達、車への給油などは問題なく行えたそうです。特に驚かれていたのはコインランドリーについてで、ご自宅近くの通電が早かった地域では、コインランドリーが使用可能になると人々が毎日列をなしていたそうなのですが、茨城県に入れば行列することなく使用できたことだそうです。近接地域とはいえ、電力がどのルートを通って来ているかでこんなにも違いがあるものかと思われたとのことでした。

ともかくも、被災された地域の早い復興と、被災された方々の心身の安定を祈るばかりです。

台風15号によるNatech

9月に日本列島に上陸した台風15号でも、それに起因するNatechが起きましたね。 伊藤さんは昨年お話ししたNatechについて覚えていますか?

はい、覚えています。台風や地震などの自然災害に起因する産業事故のことで、Natech(ナテック)Natural-Hazard triggered Technological Accidentsの略称ですよね。昨年は地震や台風など、数多くのNatechが起きました

台風15号に起因するNatechとして大きく報じられたのは、千葉県市原市のダム湖面に設置されたメガソーラの火災でしょうか。

2019/09/09 千葉県市原市・台風の影響でダム湖面の太陽光発電施設火災
工業用水用ダムの水面を利用して設置された太陽光発電施設での太陽光パネルの火災。台風15号の猛烈な風の影響でパネルが吹き寄せられ、倒れたり折り重なったりしたまま発電して短絡が起きた可能性がある。

そうですね。この事故は大きく報じられていましたね。

今回この記事を書くにあたり調べてみたのですが、2019/9/9未明から午前中にかけて千葉県を襲った台風15号に起因するNatechは、それ以外にも起きていました。経済産業省が台風15号の被害をまとめたもの(前出)を公表していますが、ここではその中からNatechを数件あげてみます。

千葉県市原市・台風で電気ケーブル工場の変圧器から分圧器が落下して絶縁油が漏洩
台風15号による風雨の影響で、電気ケーブル工場の屋外危険物ヤードに置かれた試験用変圧器の分圧器が落下し、内部の絶縁油が敷地内に漏洩した。絶縁油はPCB廃棄物の可能性があったため成分分析を行ったが、PCBは含まれていなかった。

千葉県千葉市中央区・台風で製鉄所の足場が落下し塩酸タンク配管が破損して塩酸が漏洩
台風15号による強風の影響で製鉄所の塩酸回収設備の鉄製の足場が落下し、塩酸タンク下部の樹脂製配管が破損した。影響で同配管から塩酸が漏洩するも、設備点検で漏洩に気づきタンクの弁を閉止し、漏洩した塩酸は防液堤内に収まった。しかしその後の降雨により、防液堤に雨水がたまり、漏洩した塩酸と混ざって溢れ、海に流出した。約0.5立方mの塩酸が海に流出した可能性がある。

千葉県市原市・台風で製鉄所の燃焼放散塔が倒壊
台風による強風の影響で、製鉄所の約75mの燃焼放散塔が倒壊した。影響で転炉ガス配管などが破損したが、同工場は台風に備えて操業停止中であったため、ガスの漏洩はなかった。

過去最大級の・・・

本当に様々なNatechをもたらした台風15号でした。自然が相手なので、被害は一律ではなく、被災中になすすべがないこともあります。例えば、強風による被害の場合、前もって防御策を講じていても、過去にない猛烈な風が吹けば、かつて被害を防ぐことができた防御策では役に立たないことがあります。豪雨においても同様のことが言えるでしょうし、まして強風と豪雨が一緒になれば、その破壊力たるや想像できません。

台風15号では、千葉市で観測史上1位の最大瞬間風速57.5m/sの風が吹いたそうです。これはあくまでも最大瞬間風速ではありますが、一般的に、瞬間風速は平均風速の1.5−3倍近い値になると言われているので、この時の平均風速は30m/sに近かった可能性があります。しかし、風速にせよ、雨量にせよ、ここ数年記録がどんどん更新されている気がします。日本はどうなってしまうのでしょう。
 参考:気象庁ウェブサイト
 よくある質問集
 「風について(「風速」と「瞬間風速」は、何が違うのですか?)」

異常気象は日本だけの問題ではなく、世界的な問題です。これまでの経験が活かされないような自然災害が起きていますが、しっかりと異常気象に関する情報とそれに伴うNatechに関する情報を集め、「想定外」を無くす努力が必要だと思います。ただ、残念ながらNatechに関する情報は、世界的にも未整備の状況ですので、我々としてもRISCADからNatechに関する情報を発信することや、OECD/WGCA(化学品事故WG)で進められている”Natech: Good Practice Examples”の情報を皆さんに提供できると良いですね。

そうですね。産業はもちろん、私たち自身についても、自然事象相手とは言え、「想定外」の規模だったので、太刀打ちできなかったと言ってばかりではいけない時代がやってきたようです。

【参考情報】

経済産業省
 令和元年台風第15号による被害・対応状況について(9月19日(木曜日)8時00分時点)
気象庁
 よくある質問集
 風について(「風速」と「瞬間風速」は、何が違うのですか?)
産総研 安全科学研究部門
 コラム
 「経済協力開発機構(OECD)Working Group on Chemical Accidentsの紹介」(和田 有司)

【編集後記】

私自身が年を重ねたことにより怖いものが多くなったのでしょうか、はたまた着眼点が変わったのでしょうか。ここ数年の自然災害の多さに驚きを隠せません。現在の業務についてから6年、当初はここまででNatechも多くなかった気がしています。記事を書くにあたり、昨年、今年の自然災害を振り返りましたが、情報収集は大事だとしても、来年は新たに発生したNatechの記事を書かずに済めばいいと思っています。
折しも今週末、大型で猛烈な台風19号が関東に直撃かとの予報。何もないに越したことはありませんが、「想定外」レベルかもしれない被害に備え、しっかりと準備をしましょう。

「さんぽのひろば」過去のNatech関連記事
RISCAD CloseUP「自然災害に起因する産業事故-2018年9月のニュースから-」
RISCAD LookBack「自然災害に起因する産業事故「Natech」-2018年のニュースから-」


さんぽニュース編集員 伊藤貴子