2019年の自然災害に起因する産業事故「Natech」【週刊化学災害ニュースまとめ】2019年のニュースから RISCAD LookBack

今年も残すところあと5日。2019年の「さんぽのひろば」締めの記事は「RISCAD LookBack」です。新しい元号「令和」がスタートした今年、「さんぽのひろば」内で取り上げた内容から、印象に残ったトピックスを振り返ってみたいと思います。

投稿日:2019年12月26日 10時00分

今年は災害が起きないでほしい、Natechの記事を書かずに済めばいい、と願っていたものの、書かずにはいられない事象が多数発生してしまいました。

2019年は夏から秋にかけて梅雨前線による大雨や、次から次へとやってくる大型台風による被害によって、日本列島は泣かされました。すでに「さんぽのひろば」でも何度も取り上げている、自然災害が発端となって起きる産業事故「Natech」(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)ですが、それらの自然災害は多数のNatechをもたらしました。

ここでは、今年「さんぽのひろば」でご紹介したNatechに相当する事例を振り返ってみたい思います。

2019年、激甚災害に指定された事象

まず、今年激甚災害に指定された自然災害を見てみましょう。
(出典:内閣府  防災情報のページ「過去5年の激甚災害の指定状況一覧」

災害名 主な被災地
令和元年6月6日から7月24日までの間の豪雨及び暴風雨による災害
(令和元年梅雨前線豪雨等(台風第3号及び第5号の暴風雨を含む。))
長崎県・鹿児島県・熊本県
令和元年8月13日から9月24日までの間の暴風雨及び豪雨による災害
(令和元年8月から9月の前線等に伴う大雨(台風第10号、第13号、第15号及び第17号の暴風雨を含む。))
佐賀県・千葉県
令和元年10月11日から同月26日までの間の暴風雨及び豪雨による災害
(台風第19号、第20号及び第21号の暴風雨による災害)
岩手県・宮城県・福島県
茨城県・栃木県・群馬県
埼玉県・千葉県・東京都
神奈川県・新潟県・山梨県
長野県・静岡県

昨年もこの表と同様に激甚災害の一覧を掲載しましたが、そちらと比較しても今年の「③令和元年十月十一日から同月十四日までの間の暴風雨及び豪雨による災害」については、主な被災地の数が14県と群を抜いており、47都道府県を有するわが国においては、そのおよそ1/3が被災したということになります。

2019年に起きた自然災害に起因する産業事故「Natech」

それでは、今年「さんぽのひろば」で紹介した、上記の激甚災害に起因して起きたNatechに相当する事例をみてみましょう。

*2019/08/28 佐賀・大雨による冠水で鉄工所の油槽から石油類が流出
:大雨で鉄工所の油槽が冠水して約8万Lの油類が流出。工場内には熱処理用油が入った容量最大1万Lの油層が複数あり、過去の浸水による油流出の経験から、建屋のかさ上げや重量シャッタの設置がされていたが、想定以上の雨量のため石油類が流出した可能性。同工場から下流に約1kmの位置にある老人保健施設が併設された病院に油が流入し、入院患者ら一時約250名が2日間孤立した

*2019/09/09 千葉・台風の影響でダム湖面の太陽光発電施設火災
:工業用水用ダムの水面を利用して設置された太陽光発電施設での太陽光パネルの火災。台風15号の猛烈な風の影響でパネルが吹き寄せられ、倒れたり折り重なったりしたまま発電して短絡が起きた可能性がある

*2019/09/09 千葉・台風で電気ケーブル工場の変圧器から分圧器が落下して絶縁油が漏洩
:台風15号による風雨の影響で、電気ケーブル工場の屋外危険物ヤードに置かれた試験用変圧器の分圧器が落下し、内部の絶縁油が敷地内に漏洩した。絶縁油はPCB廃棄物の可能性があったため成分分析を行ったが、PCBは含まれていなかった

*2019/09/09 千葉・台風で製鉄所の足場が落下し塩酸タンク配管が破損して塩酸が漏洩
:台風15号による強風の影響で製鉄所の塩酸回収設備の鉄製の足場が落下し、塩酸タンク下部の樹脂製配管が破損した。影響で同配管から塩酸が漏洩したが、設備点検で漏洩に気づきタンクの弁を閉止し、漏洩した塩酸は防液堤内に収まった。しかしその後の降雨により、防液堤に雨水がたまり、漏洩した塩酸と混ざって溢れ、海に流出した。約0.5立方mの塩酸が海に流出した可能性がある

*2019/10/16 福島・台風による河川氾濫によりめっき工場からシアン化ナトリウムが流出
:台風の大雨による河川氾濫の影響で、めっき工場からシアン化ナトリウムが流出。薬品管理簿も流出したため、流出量は不明

*2019/09/17 長野・台風により浸水しためっき工場からシアン化ナトリウムが流出
:台風による大雨で堤防が決壊し、めっき工場が浸水して容量約6,700Lのめっき槽からシアン化ナトリウムが流出。付近の河川の水質検査の結果、シアン化合物は検出されず、同工場敷地内外の土壌調査の結果、微量のシアン化化合物が検出された。けが人や健康被害はなかった

*2019/10/18 福島・台風による河川氾濫でめっき工場からシアン化ナトリウムが流出
:台風の大雨により河川氾濫が起きてめっき工場が浸水。工場の基礎コンクリート内部にある廃液槽からシアン化カリウムが漏洩して流出し、工場から約300m離れた側溝で排水基準の約156倍に当たる78mg/Lのシアン化合物を検出した

*2019/10/21 福島・台風による浸水で溶剤リサイクル工場から有害物質入りのドラム缶などが流出
:台風19号による大雨の影響で、溶剤リサイクル工場からフッ化水素アンモニウム溶液、トリクロロエチレン、ジクロロメタン、イソプロピルアルコールなどの有害物質が入ったドラム缶、一斗缶、樹脂容器など多数が川に流出。管理帳簿も水没し、正確な流出量は不明。一部は発見され回収されたが、蓋が開いたり、容器に穴が開いたりして内容物が漏洩しているものがあった

私たちが知ることができたものだけでも、これだけのNatechが起きました。その数と被害の大きさを見ると、「想定外の規模の自然災害だったので太刀打ちできなかった」とばかり言っていられない時代がやってきたと強く感じさせられる1年となりました。

【参考記事】

RISCAD CloseUP「自然災害に起因する産業事故-2018年9月のニュースから-」
RISCAD LookBack「自然災害に起因する産業事故「Natech」-2018年のニュースから-」
RISCAD CloseUP「自然災害に起因する産業事故-その2–2018年9月のニュースから-」

【編集後記】

今回のRISCAD LookBackでは、今年起きた自然災害が発端となって起きる産業事故「Natech」について取り上げました。しかし、今年次々と日本列島を襲った大雨や台風は、産業界のみならず、私たちの日常生活にも被害をもたらしました。

住宅においては、床下、床上浸水や屋根が強風により吹き飛ばされるなどの被害。道路や線路、交通手段である自動車、バス、電車の水没などの被害や、公共交通機関の運休。千葉県の一部地域が長期間にわたり停電したことも未だ強く印象に残っています。

こうした災害の後にはどうしても大量の廃棄物がでます。水に浸かって使用できなくなった住宅の壁材、床材、家具、家電製品など、数えればきりがありません。それらは災害廃棄物と呼ばれていますが、その災害廃棄物が原因となる火災が起きているとの話を聞きます。来年最初のRISCAD CloseUPでは、「災害廃棄物による火災」についてお伝えしたいと思います。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子