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実験をしなければ事故が起きない、は良いことなのか−教育現場での安全教育の可能性−【注目の化学災害ニュース】2020年5月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年06月04日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論された内容をご紹介いたします。
5/25に政府は新型コロナウイルス(以下、COVID-19)感染拡大防止対策として発令していた緊急事態宣言を全面的に解除しました。これにより、各都道府県は学校の段階的再開を進めています。長かった臨時休校を経た子どもたちは、登校して先生、友達に会えることを楽しみにしていたことでしょう。そんな中、私たちさんぽチームで気づいたことがありました。それは、例年5月に多発する傾向にあった、あの事故がなかった、ということ。学校が休校だったので、当然といえば当然なのですが・・・。今回は、「実験をしなければ事故が起きない、は良いことなのか-教育現場での安全教育の可能性-」にClose UPです。

緊急事態宣言の全面解除と学校の再開

長いところでは1ヶ月半にわたったCOVID-19感染拡大防止対策の緊急事態宣言が解除されましたね。外出自粛ということで、私自身、生活のリズムがかなり変わった気がしています。

もともと買い物は週末にまとめてしていましたが、店内ではマスクを必ず着用、入店時と出店時には店舗に備え付けの消毒薬で手指の消毒、触れて開けるタイプのドアはなるべく手のひらや指先ではなく手の甲や腕、肘などで開けることなどはすっかり身につき、意識せず行うようになりました。そしてここ数ヶ月、電車等はもちろん、車移動でも市内からほとんど出ていません。

まだまだ予断を許さない状態ですし、第二波の襲来にも備えなくてはいけないので、解除になったとはいえ、しばらくは慣れたついでに現状維持の生活を続けようと思っています。

和田さんはいかがでしたか?

私は外勤や出張がなくなり、ここ数年にないくらい移動の少ない生活となりました。高校を卒業して東京に出てきて以来、こんなに長い間電車に乗らなかったのは初めてだと思います。切符の買い方も忘れそうですが、それ以前に、今はICカードがあれば切符を買わなくて良いことを忘れていました。

確かに、そういう変化を経験した方は多そうですね。

お子さんの学校はやはり休校になったのでしょうか?

そうですね、今年高校に入学したのですが、入学式は行ったもののそれ以降休校で、5月の最終週からやっと段階的に登校が始まりました。

ちょうど高校生活のスタートだったとは・・・。色々と大変ですね。

もし自分が今学生だったと想定して、自由に欠ける世情不安定な夏休み以上の長い休校期間を経ての学校再開に、果たしてどんな気持ちになっただろうと考えると、それだけで気が重くなります。

例年この時期に多発する傾向にあった理科の実験中の事故

5月といえば、例年この時期に多発する、あの理科の実験中の事故は起きませんでしたね。休校中なので当然ではありますが。

過去のこのRISCAD CloseUPや、RISCAD Updateで取り上げてきた、中学校の理科の授業での、主に硫化鉄を作って発生した硫化水素の臭いを嗅いで確認する実験に関連する生徒たちの体調不良は、今年は現在までのところ起きていませんね。

報道などからの情報で、2ヶ月以上にわたって休校したことで発生した学習の遅れを、いかに取り戻すかという議論が聞かれますが、個人的には、例えば理科の実験、家庭科の調理実習といった実践系の授業は真っ先に省略されることになるような気がしています。背に腹は変えられないのかもしれませんが、それらを経験できないことで、子どもたちにとっては貴重な体験の機会が失われることになりますね。もちろん、実験等での事故が起きないにこしたことはないのですが・・・。

今回の長期休校の影響で、そのような措置が取られる可能性がないとは言い切れませんね。

実験での体調不良が起きないのはもちろん良いことですが、実験の授業を行わなかったから事故が起きなかったというのと、実験を適切に行ったから事故が起きなかったというのでは、大きな差があります。

実験などの実践系の授業から得られること

以前に学校での実験の話をした際に触れた私自身の体験ですが、今を遡ることおよそ30年前、私は当時では珍しかったであろう、マッチやライターで火をつけられない子どもでした。そんな私も、中学校の理科の実験でアルコールランプを使用したときは、大人の階段を一段登ったような気がしたものです。

現在、教育現場でアルコールランプを使用しているかどうかは別として、先生の指導のもとで行う実験などの実践系の授業は、やや大げさな言い方ではありますが、その後の生活の糧となっていると感じる部分が多くあります。

しっかりした指導のもとで行われる、理科の実験などの実践系の授業は大事であると私も考えます。学校での理科の実験は、理科の知識を得る勉強であると同時に、安全教育の貴重な体感教育の場でもあるからです。そのためにも、子どもたちが安全を学ぶ機会を失くすようなことは、できれば避けたいものです。

それを聞いて、家庭科の調理実習で、ガスの元栓の開閉を行った時のこと思い出しました。私は家庭ではガスの元栓に触れることなどまずありませんでしたから、先生の指導のもとガスの元栓の仕組みを知ってなるほどと思った反面、もし授業後にガスの元栓を閉め忘れたらどうなるのだろう、私の家のガスの元栓は料理が終わったらきちんと閉めているのかな、ガスが漏れたらどうしようと考え、怖くなったことがあります。ちょっと臆病すぎる私の子ども時代ではありますが、そういう風に道具や物質の怖さを知るというのは、調理実習でいうと、調理知識を得る勉強であると同時に安全を学ぶ機会でもあったということになりますね。

その通りだと思います。先に伊藤さんが言ったように、その時に安全を含めた知識と感性を身につけておけば、意識せずとも自ずと安全に対する意識も向上し、その後の生活の糧になるのではないかと考えます。

習うより慣れろ、ではなく、習って慣れろといったところでしょうか。

オンライン授業で安全を学ぶことは可能か

休校中には、オンライン授業が検討されている、または実施されたという報道などを見ました。

例えば、オンライン授業で前述の硫化鉄を作る実験を行った場合、生中継の授業であれば実際に実験を行うのは先生であり、それがビデオを上映しての授業であれば映像制作会社の関係者であるわけで、生徒たちは画面の向こうで行われている実験を見て学ぶ、ということになると思いますが、この場合は、実験の疑似体験はできていると考えてよいのでしょうか。

オンライン授業で実験を見せて学ばせることについて、安全教育につながる実践教育という意味では、十分ではないと私は考えます。

硫化水素は危ない、腐った卵のような臭いがする、と言っても、おそらく今の子どもたちは腐った卵の臭いを嗅いだことはないでしょうから、仮に大人になって、硫化水素と接する可能性がある仕事をした時に、臭い=硫化水素=危険、と結びつけることができません。何の臭いだろう、と探っているうちに中毒になってしまいかねません。これを家庭にある何かで代用して臭いを体験させるのは、卵を腐らせるといった違った意味で危険な実験をやらなければならなくなります。

たしかに生徒たちは、映像を見て、実験器具に近づき過ぎず、臭いを嗅ぐ時には手であおいで嗅ぐという作法を学び、手であおぐポーズをまねてみることはできますが、実際に臭いを嗅ぐことはできません。一方で、実際に臭いを嗅がないので、吸い込む量が多かったり、感受性が強かったりということに起因する体調不良は発生しません。

しかし、和田さんがおっしゃったように、実験の授業を行わなかったから事故が起きなかったというのと、実験を適切に行ったから事故が起きなかったというのでは話は全く違いますよね。

実は理科や化学の実験というのは、もちろん物質の反応を学ぶことがメインではあるのですが、それだけではなく、物質には危険なものがあること、それをどう扱えば良いか、また、誤った扱いをするとどんな危険なことが起きるか、そして最終的にはその物質を安全に処分するにはどうするかまでを、体験とともに記憶に刻み込む場でもあるのです。

今回のCOVID-19の流行による臨時休校の影響で、実験を体験しない世代が生まれ、ひいては安全教育不足、安全感性不足になる世代ができてしまう可能性を考えると、安全の未来にとっても、理科の実験など、実践系の授業が省略されてしまうことは、あるべきではないと私は考えます。もちろん、それは最大限に安全に配慮した上での実験であることは言うまでもありません。

【参考記事】

RISCAD CloseUP – 中学生に実験の経験は必要ないのか?【注目の化学災害ニュース】2017年5月のニュースから
RISCAD CloseUP – 理科の実験における教諭への安全教育の重要性【注目の化学災害ニュース】2017年9月のニュースから
RISCAD LookBack – 教育現場での理科の実験中の事故について【週刊化学災害ニュースまとめ】2017年下半期のニュースから

【編集後記】

今回、この記事を書いていて思ったのですが、みなさんは「腐った卵の臭い」というのを嗅いだことがありますか?実は私はないことに気づきました。紋切り型に、「硫化水素は腐った卵の臭い」と覚えていましたが、これを機に私の中の硫化水素の臭いの記憶を辿ってみました。

小さい頃、家族と温泉に行くことがあり、そこで嗅いだ変な臭い、それが硫化水素と私の出会いでした。そして、その変な臭いのする濁った色の温泉を「硫黄泉」というのだと教えてもらいました。お土産に「湯の花」を買い自宅のお風呂に入れると、実際の温泉ほどではありませんがあの「変な臭い」と似た臭いがしました。

しかし、その変な臭いを最初に嗅いだ時、どこかで嗅いだことがある臭いだなと思いました。その時は何だかよく分かりませんでしたが。

あるとき、ゆで卵を食べようとして殻をむいていたら、うまくむけずに、白身から黄身が飛び出してしまいました。その時、ゆで卵の黄身にまじまじと顔を近づけた私は「あっ、温泉の臭いだ」と思ったのです。そのゆで卵は決して腐っていたわけではありません。

そしてその後、硫化水素に関する実験を体験するわけですが、その時にはすでに、硫化水素の臭いについては、あの白く濁った温泉のような臭いで、ゆで卵の黄身に似たにおいと理解できていました。

もはや、「卵の腐った臭い」は学校のベテランの域に入る年齢の先生ですら嗅いだことがないかもしれません。そう考えると、硫化水素の臭いを、ゆで卵の黄身のにおいに例えるのもありではないかと思ったのでした。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子