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これからの時代を生きる心得−自然災害に備える−【注目の化学災害ニュース】2020年7月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年08月06日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。 ここ数年、毎年夏から秋頃にかけて、嫌でも触れるしかなくなった自然災害。今年は梅雨の時期である先月、「令和2年7月豪雨」により、九州地方から中部地方にかけてが被害を受けました。またその後、東北地方でも大雨による河川の氾濫などの被害が起きました。これまでは、今年こそは、来年こそは甚大な被害をもたらす自然災害が起きませんようにと祈るような気持ちでいましたが、そう言い始めて今年で3年目となりました。そろそろ、この日本列島を襲う自然災害を「異常気象」とは言っていられない状況になってきたと痛感しています。そんな中、私たちはどのような心得をもって自然災害と対峙していけば良いのか、そしてそれに伴い発生する自然災害が発端となって起きる産業事故「Natech」(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)にどう備えていけばよいか、答えは出ないまでも考えるきっかけとして、今月は「これからの時代を生きる心得―自然災害に備えるー」と題してClose UPです。

長かった梅雨、そして「令和2年7月豪雨」

8月に入り、関東地方もやっと梅雨が明けました。梅雨入りは例年並であったような気がしますが、梅雨明けまでがとても長かったように感じるのは、「梅雨の晴れ間」や「梅雨の中休み」といった、雨のシーズンでもたまには顔を出してくれる太陽にあまりお目にかかれなかったからかもしれません。

そんな長い梅雨中に、「令和2年7月豪雨」が九州から中部地方を襲いました。その雨は7/3から7/8頃にかけて降り続き、被害をもたらしました。特に熊本県南部での被害は甚大なものとなりました。

それに伴い、過去に「さんぽのひろば」で何度も取り上げている、自然災害が発端となって起きる産業事故「Natech」(ナテック:Natural-Hazard triggered Technological Accidents)も発生しました。

「令和2年7月豪雨」による「Natech」−炉への雨水流入−

ではここで、「令和2年7月豪雨」により引き起こされたNatechで、私たちが情報収集できた事例を見てみたいと思います。

2020/7/4 熊本・豪雨により炭素製品工場の炉で水蒸気爆発
豪雨により炭素製品製造工場の黒鉛化炉で水蒸気爆発による火災が起きた。消防が出動したが、放水により再度水蒸気爆発が起きる可能性があったため、炉の温度が下がるのを待ち、約26時間半後に鎮火した。けが人はなかった。警察と消防の調べでは、同工場が豪雨により冠水し、約2,000℃の黒鉛化炉に雨水が流入して水蒸気爆発が起きた可能性がある。

この事故は、工場が豪雨で冠水し、高温の炉内に雨水が流入したことにより起きた水蒸気爆発ですが、一昨年の「平成30年7月豪雨」による被害で、やはり同じように炉内に水が流入したことにより発生した水蒸気爆発がありました。その事例は以下の通りです。

「平成30年7月豪雨」での炉への雨水流入による水蒸気爆発


2018/7/9 岡山・豪雨による浸水でアルミニウム工場の溶解炉で水蒸気爆発
豪雨による浸水でアルミニウム工場の容量約40tの溶解炉で水蒸気爆発が起きた。周辺の民家、空き家、車庫の計3棟が全焼し、広範囲にわたり民家などの窓ガラスや壁などが破損した。周辺住民など約40名が負傷した。同工場が所有する化学物質による二次災害の恐れがあったため、警察が周辺住民に避難指示を出した。警察と消防の調べでは、当日は大雨に備え朝から同炉の運転停止のためのアルミニウム抜き取り作業が行われていた。同工場は通常は24時間操業であったが、午後10時前に同工場内が浸水し始めたため、同炉内に熱せられたアルミニウムが約半分残った状態で従業員は避難し、爆発当時同工場は無人であった。高温のアルミニウムが残った炉内に水が流入して水蒸気爆発が起きた可能性がある。

尋常ではない大雨に、炉の浸水の可能性を想定して、水蒸気爆発が起きるのを未然に防ぐべく、炉からアルミニウムの抜き取り作業をしていたにも関わらず、無情にも水は迫る。そうなればもちろん人命優先です。炉内のアルミニウムを残して避難することとなったのであろうと推察されます。

避難の難しさと稼働停止の難しさ

生活している土地に被害が迫っているから避難してくださいと言われても、なかなか思いきれないというのは、これまでの自然災害による被災状況を見ても明らかです。その証拠に、政府は7月末に、災害時に市町村などの自治体が出す「避難情報」のうち「避難勧告」を廃止し、「避難指示」に一本化する方針を固めました。これは予てからいわれていた、「避難勧告」と「避難指示」の違いのわかりにくさを解消する目的で行われるもので、気象庁が発表する「防災気象情報」(「警戒レベル」で発令)では、自治体が発表する「避難勧告」も「避難指示」も、「警戒レベル4」に位置付けられているためわかりづらく、避難が遅れがちであったのを、「避難指示」に一本化することで早期避難を促すための見直しです。

個人レベルでも、災害時の避難の決断というのはそれだけ難しいわけです。避難しても空振りだったらという思いはもちろんあるでしょうし、家族構成等によってはそれぞれの抱える事情により避難の決断が遅れることもあるでしょう。

製品を生産・販売した利益で成り立つ企業・工場等に関していえば、一度稼働を止めると再稼働までに時間を要す機器もあり、また、生産が止まれば売り上げがなくなるわけですから、先の岡山の工場の例のように前もって事故に備え稼働停止の準備をするというのは、本当に苦渋の決断であると考えます。

そして災害までに稼働停止が間に合わなければ、事故の規模は小さくすることはできても、事故の発生を防止することはできません。しかしそのためには一体いつから稼働停止の準備を始めたらいいのでしょうか。前述の例で言えば、大雨の予報の時点で稼働停止の準備のために炉からアルミニウムの抜き取り作業を始める、というのは非現実的です。

台風シーズンの到来

梅雨が明ければ、今度は台風シーズンがやってきます。「何十年に一度の災害、運が悪かった」では済まされない頻度で起きる自然災害、そろそろ「異常気象」とばかり言っていられない世の中になってきたと感じます。

これからの時代、企業・工場等も自然災害に備えての対応マニュアルをしっかり備えておかねばならない、それだけは言えます。もちろんこれまでも備えてあるとは思いますが、昨今起きている事例を参考にマニュアルを見直す必要があると考えられます。

とはいえ、自然災害はマニュアル通りにやってくるものではないので、これまたとても悩ましい問題ではあるのですが、まずは、想定から始めることが大事ではないかと思うのです。

【参考情報】

 経済産業省 ウェブサイトより
  令和2年7月豪雨による被害・対応状況について(7月18日(土曜日)11時00分時点)

【さんぽのひろば 過去の参考記事】

【編集後記】

「令和2年7月豪雨」での産業事故としては、他にも倉庫からの河川への農薬の流出事故などが起きました。また、前出の経済産業省の情報からもわかるように、LPガスボンベやシリンダが流される被害も多数起きたようです。

私たちは今後も、自然災害とNatechについて考えていきたいと思います。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子