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スプレー缶−そのしくみと危険、注意点をもう一度考える−【注目の化学災害ニュース】2020年8月のニュースから RISCAD CloseUP

投稿日:2020年09月03日 10時00分

過去のニュースから、さんぽチームで活発に議論がされた内容をご紹介いたします。 先月、信号待ち中のトラックで爆発が起き、車体が損傷し、フロントガラスを含む車両のガラス類が破損して飛散するという事故が起きました。幸いにも運転手の方は軽傷で済んだのですが、ニュース等でそのひしゃげた車両の映像や写真をみて驚かれた方もいたかと思います。さて、その事故、自動車が絡むとはいえ、交通事故が原因で起きたわけではありませんでした。この事故は、私たちがこのコーナーで何度も触れている、エアゾール缶(以下、スプレー缶)の噴出剤に使用されている可燃性ガスに着火したことが原因で起きたのです。注意喚起は何度しても過ぎることはないと考え、今回は「スプレー缶―そのしくみと危険、注意点をもう一度考える―」と題してClose UPです。

歪んだ車体、割れて飛散したガラス

8/19に広島県で、トラックの車内で冷却用スプレーを噴霧後に爆発するという事故が起きました。事故の概要は以下の通りです。

トラックの運転手が、車内で体に向けて冷却用スプレーを約30秒噴霧した後、たばこを吸うためライターを操作した。車内に残留していた冷却用スプレーの噴出剤の可燃性ガスに、ライターの火で着火した可能性がある。

ニュースの映像では、車体が歪み、フロントガラスなどのガラスパーツが割れて飛散した様子が見受けられました。運転手の方はさぞや大きなけがをされたのではないかと心配になりましたが、不幸中の幸い、軽傷とのことでした。

換気が不十分な車内で約30秒冷却用スプレーを噴霧し、さほど時間が経過していないうちにライターの操作をしたとすれば、スプレーの噴出剤の可燃性ガスはそれなりの量が車内に滞留していたと想像されます。そこに着火するわけですから、その衝撃は大きかったと思われます。

「原因は冷却用スプレー」と聞いてどうとらえるか

私たちが「スプレー缶」と呼んでいるものは、「エアゾール(缶)」というのが正式な名称で、「一般高圧ガス保安規則」で規定されています。「エアゾール(エアロゾル、aerosol)」は、化学的には、例えば霧や雲、煙などの微細な粒子が空気中に多数浮遊している状態のことをいうのですが、ここではその詳細な説明は割愛します。

ここからは、「エアゾール缶」ではなく、私たちにとって馴染み深い「スプレー缶」の呼称で、そのしくみについてお話します。

まず、私たちの身の回りの「スプレー缶」を使用した製品にはどんなものがあるでしょうか。

今回の事故でその名前が出てきた冷却用スプレー。ヘアスプレー、制汗剤スプレー、消臭剤スプレーに清掃用スプレー、殺虫剤スプレー。他にもスプレー缶に入った塗料もありますし、髭剃り用のクリームや洗顔フォーム、また、医薬品類、食品類などでもスプレー缶を使用している製品があります。

では、これらのスプレー缶からは、どのようにしてその内容物が出てくるのでしょうか

スプレー缶を外から見ると、内容物が入った缶、内容物を噴霧さするために私たちが押すボタンがあります。スプレー缶内部には、バルブ、チューブといった部品があり、そして、内容物と噴出剤が入っています。この噴出剤には液化ガスが使用されていますが、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル(DME)などの可燃性ガスの使用が主流です。スプレー缶の噴出剤として使用される液化ガスは、沸点が常温以下であるため、常温で気化しますが、圧力をかけると容易に液化する性質を持っており、スプレー缶内部では、この液化ガスの一部が気化して常に圧力がかかった状態になっています。

スプレーを使用するために私たちが缶上部のボタンを押すと、噴出剤である液化ガスが気化した部分の圧力により、内容物と噴出剤がエアゾールの状態となって缶の外部に噴霧されるのです。

ちなみに、かつて噴出剤には、不燃性のフロン類(フルオロカーボン、炭素とフッ素を含む化合物)が使用されていました。しかし、そのフロン類のうち、クロロフルオロカーボン(CFC)とハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)は、オゾン層を破壊する効果が高いという理由で、1987年にカナダで採択された「モントリオール議定書」にのっとり、先進国においては使用されなくなりました。そのため、現在ではスプレー缶の噴出剤として可燃性のLPGやDMEなどが使用されているのです。

何が「爆発」するのか? 

スプレー缶からの内容物噴霧のしくみをおさらいしたところで、次に、スプレー缶に関する爆発事故について考えたいと思います。

ニュースなどで、「スプレー缶が爆発した」といった情報を見ることがありますが、この表現は誤りです。スプレー缶は爆発しません。なぜなら通常、スプレー缶の内部には、空気(酸素)がないからです。起きるとすれば、破裂です。缶内部の圧力が何かの原因で上昇すれば、缶が破裂することはあります。例えば、使用中の暖房器具の前や真夏の車内への放置などで、噴出剤の液化ガスが気化した部分の圧力が上昇し、その圧力に耐えられなくなった缶が破裂するといった事故が過去に起きています。

では、スプレー缶に関するもので爆発するものは何でしょうか。それは噴出剤であるLPGやDMEといった液化ガスです。これらのガスは可燃性ガスで、内容物の噴霧時に、内容物とともに缶の外に出ます。LPGといえば、私たちが家庭で使用しているLPガスと同等ですから、着火源があれば燃えます。そのガスの濃度が高ければ爆発的燃焼を起こすことがあり、今回の車内での爆発事故のようなことが起きるのです。

事故を防ぐために気をつけるべきこと

スプレー缶の噴出剤に起因する爆発事故は少なからず起きており、しかも似たケースの事故が繰り返し起きています。

では、私たちはどうすれば安全にスプレー缶入りの製品を使用することができるでしょうか。いつも使用している製品だからと安心しきらずに、使用の際には、製品の説明書を読み、自分自身に注意事項をリマインドすることは大事だと思うのです。

説明書には、缶をよく振ってから使用するのか、逆さまにして使用できるのかどうかなどとともに、可燃性ガスを噴出剤として使用している製品であれば、必ず「火気厳禁」の表示があり、「火のそばで使用しないこと」といった注意事項が記載されています。その表示を見たら要注意です。内容物の噴霧とともに噴出剤である可燃性ガスも噴霧されますから、火気のそばで使用してはいけませんし、今回の事故のようにスプレーの使用後すぐに火気を使用することももちろん厳禁です。換気が悪い状態であればなおのことガスが付近に滞留しますし、そのガスは火気により着火します。

便利なスプレー缶入りの製品を安全に使用するために、ぜひ気をつけていただき、不幸な事故が減って欲しいと思います。

【さんぽのひろば 過去の参考記事】

【編集後記】

ここ数年で起きたスプレー缶の噴出剤に着火したことが原因となった爆発事故といえば、2018/12に起きた北海道の不動産仲介店での消臭スプレー処分中のガス爆発事故が未だ記憶に新しいところです。不動産仲介店内で店長と従業員の計2名が部屋のドアや窓を閉め切った状態で消臭用スプレーを噴霧して処分する作業をしており、店長が手を洗うために湯沸かし器をつけた際に、スプレー噴出剤のDMEに着火したのが原因の可能性がある事故で、先月半ばに、札幌地方裁判所が同店の元店長に、禁錮3年、執行猶予4年の実刑判決を言い渡しました。

この事故の着火源は湯沸かし器の点火時の火花であったとされています。冒頭のトラック内での冷却用スプレー噴霧後の爆発事故は、ライターの火が着火源で、火気として認識しやすいものですが、湯沸かし器や換気扇のスイッチ、風呂釜の種火などは、火気という認識が薄い可能性があります。噴出剤の可燃性ガスの着火源となりうる火気についても念頭におきつつ、スプレー缶入りの製品を安全に使用しましょう。

さんぽニュース編集員 伊藤貴子