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酸素濃縮装置を使用することになったときのために知っておきたいこと【注目の化学災害ニュース】RISCAD CloseUP

投稿日:2021年09月02日 10時00分

思い返せば、このコーナーで初めて新型コロナウイルス(以下、COVID-19)に触れたのは、2020年4月でした。COVID-19の流行とともに私たちの身近なものとなったエタノールを含有する消毒薬について、60vol.%以上のエタノールを含有するものであれば消防法上の危険物第4類(アルコール類)で、引火性液体であるということで、その取り扱いへの注意を呼びかけました。それから約1年半が経過した今もCOVID-19の感染拡大は収まらず、変異株が猛威を奮うなど、未だ私たちの日常生活において脅威となっています。そんななか、病院の病床逼迫により、COVID-19に罹患してもすぐに入院できず自宅で療養する人が増えており、その際に酸素濃縮装置を使用して在宅で酸素を吸入する可能性があるとのことです。自分や身内がそのような状況に至らないに越したことはないことですが、万が一に備え、酸素濃縮装置を使用することになったときのために知っておきたいことについて、酸素という物質の性質に着目してClose UPしてみたいと思います。

酸素とは?

まず、みなさんは「酸素」と聞くと何を思い浮かべますか?

私はやはり、「呼吸(外呼吸)」を思い浮かべます。私たちが鼻や口から空気を吸い、気管、気管支、肺胞などの呼吸器官を経て酸素が血液中に取り入れられます。そして同時に血液中の二酸化炭素を空気中に排出する。これが一連の呼吸の流れです。

また、酸素と聞いて思い浮かぶことに、「燃焼」があります。燃焼は、可燃性物質、酸素、着火源の三要素が揃ったときに起きる酸化反応で、一般的に使用する言葉で言うと、「燃える」ということです。

「呼吸」にせよ「燃焼」にせよ、私たちにとってとても馴染み深いことで、それら両方に関係している酸素の重要性がわかります。
 

COVID-19流行後に起きた海外の病院での火災事例

話は変わりますが、COVID-19の流行以降、海外でCOVID-19患者の入院する病院火災が発生しました。以下にその事例をあげます。

2020/5 ロシア・病院で人工呼吸器から火災
ロシア・サンクトペテルブルグの病院の6階の集中治療室で人工呼吸器から火災が起きた。集中治療室に入院していた患者20名のうち5名が死亡した。当局の調べでは、死亡した入院患者はCOVID-19に感染して治療中の重症患者であった。人工呼吸器の設計ミスまたは短絡、故障などが原因の可能性がある。

2020/12 トルコ・病院の集中治療室で治療機器から火災
トルコ・ガジアンテプの大学病院の集中治療室で火災が起きた。消防などが消火した。同室内で治療中の患者19名のうち10名が死亡し、生存者の別病院への搬送作業にあたった医師や看護師ら50名以上が負傷した。当局の調べでは、同室ではCOVID-19に罹患した患者の治療をしており、患者への酸素供給に使用していた機器に不具合が起きた可能性がある。

2021/4 イラク・病院で医療用酸素ボンベから火災
イラク・バグダットの病院の集中治療室(ICU)付近で医療用酸素ボンベが原因とみられる火災が起きた。消防が消火した。200名が救出されたが、入院患者ら82名が死亡し、110名が負傷した。当局の調べでは、同病院にはCOVID-19感染症患者を含む約120名の患者が入院中で、ICUにはCOVID-19感染症の重症患者約30名が入院していた。火災拡大を防ぐため、患者の酸素補給器に酸素を供給する配管の弁を閉止したことや、避難のため患者の酸素補給器を外したことで死傷者が増加した可能性がある。また、病院には多数の見舞客がおり、人的被害が拡大した可能性がある。同病院には防火設備が設置されていなかった。

2021/7 イラク・病院で医療用酸素ボンベから火災
イラク・ナシリヤの病院のCOVID-19感染症患者の病棟で医療用酸素ボンベが原因とみられる火災が起きた。消防が消火した。入院患者ら少なくとも92名が死亡し、100名以上が負傷した。当局の調べでは、患者の治療に使用されていた酸素ボンベが原因の可能性がある。同病棟は2021/4に新築され、病床数は70床で、COVID-19感染症患者用の病棟として使用されており、同棟内には少なくとも63名がいた。

前の2つの事例は、人口呼吸器などの故障などが原因とのことですが、後のイラクでの2つの事例では、患者の治療に使用していた酸素ボンベが関連しているとのことです。

前述したように、燃焼は、可燃性物質、酸素、着火源の三要素が揃ったときに起きる酸化反応ですが、実は、酸素自体は燃える物質ではなく、あくまでも、物を燃やすのを助ける働きを持った物質です。

血液中の酸素濃度が低下するなどした患者に、酸素ボンベを使用して酸素を補う治療を行っている医療現場で火災が発生した場合、火炎により酸素ボンベが熱せれて、溶栓から酸素が噴出するか、何かの原因で破裂するなどして、火災の被害が拡大する可能性があります。
 

国内での在宅酸素療法が関連する火災事例

それでは、冒頭で触れたように、もしCOVID-19に罹患して、在宅で酸素濃縮装置を使用することになった場合、どういったことに気をつけたらよいでしょうか。

厚生労働省「在宅酸素療法における火気の取扱いについて」のページで、平成15年から令和3年5月末までの、酸素濃縮装置使用中に起きた全88件の火災事故の原因別分類がまとめられていますので以下に引用します。

資料からは、何かの火気が原因の火災が毎年平均数件起きており、その多くが死亡事故となっていることが伺えます。
 
火災事故分類別の原因

*「その他」の中には、ストーブ、線香、台所、ろうそく等が含まれます。
*「不明」の中には、出火場所が不明の事例も一部含まれます。
* 酸素供給装置が直接の火災原因となったことはありません。

 厚生労働省 在宅酸素療法における火気の取扱いについて
 3.重篤な健康被害事例について(日本産業・医療ガス協会 医療ガス部門まとめ
 (令和3年5月末時点))より引用

また、独立行政法人医薬品医療機器総合機構から、「在宅酸素療法時の喫煙などの火気取扱いの注意について」(医薬品医療機器情報提供ホームページ PMDA医療安全情報 No.4)の情報提供用資料が発表されています。

資料では、喫煙への注意喚起が強くなされており、以下のような事故の事例が紹介されています。

  • 酸素吸入中の患者の喫煙により、酸素濃縮装置のカニューラ(酸素吸入のための管)に、ライターの炎やタバコの火で着火→やけど、焼死
  • 酸素吸入が終了し、酸素濃縮装置の電源を切らずにカニューラを放置していたところ、灰皿のタバコの火で着火→火災
喫煙人口は減少しているとはいえ、在宅酸素療法中の喫煙による事故は多いようです。大阪市消防局による、在宅酸素療法中の喫煙による火災事故への注意喚起のための動画を以下にご紹介します。可燃物に着火し、そこに大量の酸素が存在する場合の燃え方の激しさに注目していただきたいと思います。
 
大阪市消防局YouTube「在宅酸素療法中の喫煙による火災事故」

万が一に備えた知識

今回の内容で最も重要なことは、酸素供給装置や酸素濃縮装置を使用するにあたり、火気の取扱いに注意し、取扱説明書どおりに正しく使用すれば、酸素が原因でチューブや衣服等が燃えたり、火災が起きたりすることはないということです。言うまでもなく、これらの装置は、止むを得ず持病を抱えてしまった場合や、今回のCOVID-19の在宅療養などの場面で、私たちの命を支えてくれる大切な機器なのです。

もちろん、COVID-19に罹患しないに越したことはありません。しかし、罹患して体調がすぐれず、在宅で酸素濃縮装置を使用して療養を行うような状態になってからでは、使用時に注意すべきことを確認していられるほど余裕がないかもしれません。そういう意味で、感染予防を行いつつ、万が一に備えた知識として、酸素供給装置や酸素濃縮装置の使用時は火気厳禁であることを覚えておいて欲しいと思います。

 

【参考情報】

【参考記事】(「さんぽのひろば」過去のCOVID-19関連記事)

さんぽニュース編集員 伊藤貴子